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閉じる時に植える。あとの半分は、娘が水田に入って朝日の方向に向って一気に頭をあげず、足を動かさず、ひと息のうちに左手で三手を植える。
ハニ族の銭勇氏によると、田植えをする時に若衆たちが手伝いにくるが、彼らは決しておとなしくはない。早乙女に向って泥を投げかけ、これに対して早乙女たちも負けずに泥を投げ返す。このような泥うち遊びはできるだけ賑やかに行われる。「あの家では、楽しく盛大に泥うち遊びをやっている」という評判が彼らにとってはうれしいことである。また泥うち遊びによって五穀の豊饒が将来されると彼らは信じており、最も注目されるのは早乙女の鼻へ泥を投げることである。男の投げる泥が早乙女の鼻にあたれば、それは互いに緑があることを意味し、全員が一斉に二人の「天賜良縁」に歓声をあげ、早乙女の父母もなるべく二人の縁が結ばれるように応援する慣習であるという。
ハニ族の開秧門と同じように、日本にも次のような「苗開き」の儀礼が行われている。
「新潟県岩船では……田の水口に苗を一把そのままに植ゑて帰り、家の夷棚に苗一把と酒飯菜を供へる。翌日から田植えにかかる譯である」[注?]
というように日本の苗開きも、ハニ族と同じように田植えに先立って行っている。
また「長生郡などではソウリの日に蘆を三本田に立て三株五株又七株の苗を其の周りに栽ゑて祝ひをする。」とあるように、日本も神を降ろす依り代として木を田にさし立て、その周りに三本の苗を植えている[注?]
そして、「四国祖谷山において一番面白かったのは早乙女たちが田主に泥を塗ろうとして、田主を追って田の畔を駆け回ったことでそれはこの地方では泥を塗ると「よけ米ができる」と信じていたからである」という報告[注?]でわかるように、日本の早乙女たちも泥打ち合戦を楽しんでいた。

稲の火中出産

夏になると、祖田に嫁いだ稲の娘はやがて身ごもり、出産の時期に入る。ハニ族はこうした稲の出産に備え、夏の松明祭を行う。人々は鬼払いや疫病を払うために燃やした松明
田植えをしているハニ族の早乙女たち

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